映画「バースデーワンダーランド」考察 – テクノロジーの発展したインターネット時代での生き方

クレヨンしんちゃんの映画の中でも「オトナ帝国の逆襲」は好きな作品の一つだ(おそらく多くの人がそうだろうと思う)。敵役である「イエスタディ・ワンスモア1」の「汚い金と燃えないごみだけあふれる21世紀がいやだから時を止める」という思想はとても訴えかけるものがあるし、ヒロシの一生をダイジェストで描いたシーンは確実に涙が流れる。平成に生まれていたからこの映画は耐えれたが、自分が昭和に生まれていたら耐えられなかっただろう。

そんな作品を作った原恵一監督が新作を作るという情報を友人から聞いた。ゴールデンウィークも最終日、特に外に出なかったので最後ぐらいは外に出ようと朝10:30上映にもかかわらず起床し、TOHOシネマズ日比谷へと向かった。

感想としては脚本に違和感はあるものの、映像美と問題意識の点で良い映画だったと思う。ただ、オトナ帝国の逆襲を期待してはいけない。監督の前作と比べるのは良くないのはわかっているが、プロモーションでも大々的に原恵一監督推しだったのでオトナ帝国にあった凄さを期待してしまった。映像やテーマが良かっただけに、物語の論理骨折2がもったいなく思った。自分が読解力が無いだけかもしれないが。

ただ、テーマはとてもおもしろかったので掘り下げて行きたいと思う。

以下ネタバレ注意

冒頭、アカネの部屋

物語は主人公の部屋から始まる。主人公であるアカネは憂鬱そうな表情をしながら仮病をつかって学校を休む。

その原因は「小学校での女子友達の仲間はずれ」にあることが回想によりわかる。女子グループではSNS(LINE的な)で「全員でヘアピンをつけてこよう」と計画されていたにもかかわらず、偶然SNSを見ておらず、ヘアピンをつけてこなかった友達が仲間外れにされてしまう。仲間はずれにされた友達が、主人公に目線を向けるが、主人公もグループに逆らえずに友達を仲間外れにしてしまう。主人公は枕元にあるスマホに大量のメッセージが来ていることに憂鬱そうにしている。

この時点で、この物語の主人公が抱える問題は「SNSによってつながりすぎていることへの苦しみ」と、「友人の苦しみに対し何もできなかったこと」ことであることがわかる。

インターネットが発達し、「常に誰かとつながる3」ことが当たり前になった現代、女子小学生でも実際に起ってるような問題がリアルに描かれており、自分は非常に恐ろしく感じた。

この部分でアカネは常に暗い部屋の中に、それと対象に母は明るく美しい花が沢山ある庭に移動する。つまるところアカネは「(SNSによって)暗く狭い箱の中に閉じこもっている」状況にいることのメタファーなのだ。

チィの店で錬金術師と出会う

学校を休んでしまったアカネは、母の提案で自分の誕生日プレゼントを受け取りに、親戚(?)のチィの経営する雑貨店へと向かう。雑貨店ではヒポクラテスという異世界の錬金術師が登場し、アカネを救世主であると言う。そして我々の世界を救ってほしいとアカネとチィを異世界へと連れて行く。

この雑貨店でのシーンだが、「クレヨンしんちゃん」の置物がある。監督の他作品のキャラクターを登場させる4のは映画なりアニメなりでよくあるファンサービスだが「クレヨンしんちゃん」を登場させるのはなかなかなかったんじゃないかと思う。原恵一監督の「オトナ帝国の逆襲」の影響の大きさがわかる。

ワンダーランドへ

救世主であると告げられたアカネは、ワンダーランドへと向かう。そこで、ワンダーランドは「水不足により、色を失っている」という危機が迫っていることを知る。水不足の原因は王子の魔法が解けないから。魔法が解けないのは魔法をかけた魔法使いが眠ってしまったから。600年前、同じように水不足になったが、救世主が救ってくれたことなどを知る。そしてアカネたち一行は、ワンダーランドの美しさを知りながら王子のいる城へと旅をすることになる。

ワンダーランドを旅するシーンではワンダーランドの美しさに重点が置かれて描写され、非常に美しいものだった。この物語は「アカネが世界の広さと美しさを知る」物語なので、テーマにおける重要な部分であり、しっかりと美しさが描写されている。

アカネの力で王子をもとに戻す

ワンダーランドの問題を解決しながら美しさを知ったアカネは、水不足を解決する王子を何とかするために城へと向かう。その途中で、実は王子は今まで邪魔して来た敵だったことが判明する。王子は「雫切りの儀式(失敗すると死ぬ)」が嫌で、魔法をかけられたことで雫切りの儀式を破壊することが目的だったことがわかる。アカネは王子を説得し、魔法を説いて元の姿に戻す。

このシーンでアカネが王子を説得できたのは、世界の美しさを知らなかったアカネが、先程のまでの旅を通し、世界の美しさを知ったからだ。「私の世界ではテクノロジーが発達しすぎて、逆に不便になっている5」「ワクワクしたりときめいたり、みんな忘れちゃってる」とアカネは言う。繋がりすぎてしまったインターネットの時代、電車に乗るとみんながスマホをいじっている。私もどこへ行っても、気づけばTwitterアプリを開いてしまっていることを以前から問題だと思っていた。例えばどこかに旅行行ったとしても、私が見ていたのはTwitterだ。Twitterが悪いわけではないが、もっと身近な人たちや景色を大切にすべきでは..?と思っていた私にとって刺さったセリフだった。

雫切りの儀式

もとに戻った王子は、雫切りの儀式を行うも失敗し、命を投げ出す。その王子の犠牲をアカネは止め、(なぜか)無事儀式は成功し、ワンダーランドはもとに戻る。その後、ワンダーランドの1日は現実の1時間ということがわかり、600年前ワンダーランドを救ったのはアカネの母であったことがわかる。そしてアカネは世界の広さと美しさを知り、現実の世界へと戻る。

クライマックスのシーンではあるが何故か魔法使いが王子の犠牲問題をさらっと解決してしまったり、いやそもそも魔法使いが王子に魔法をかけなければ、勝手に寝なければこんな事にならなかったのでは…みたいなことを思ったり、なかなか納得するのが難しいシーンであった。まあこの物語は「世界の広さと美しさを知る」物語であり、舞台はワンダーランドなので、そこらへんの論理構造とかはさして重要ではないのかも知れない。が、やはりできればもう少し伏線を貼ってくれると納得できたかもしれないのに惜しい。

1日が1時間だとすると、1年は365時間(約15日)であり、600年前は15日✕600=9000日前であり、約25年前だ。そして世界を救った後に受け取った敷物や手形がアカネと一致したところから、600年前に世界を救ったのは25年前のアカネの母であることがわかる。ここの伏線はバッチリだった。ワンダーランドの1日が現実世界の1時間なので帰っても1時間ぐらいしか立っていない。ワンダーランドに母親が関係していることを隠しながら、現実世界に戻っても問題がないことを両立させた良いトリックだった。冒頭のシーンでアカネは常に暗い部屋にいるが母は明るい場所に出ていると上述したが、実は母親は25年前に世界の広さを知っていたという伏線だったのかもしれない。

アカネへの誕生日プレゼントとは何だったのだろうか。それはワンダーランドへの旅を通し、世界は学校の友人関係だけじゃなくもっと広く、美しいことを知ることだ。小学生の頃なんて世界は「家か学校のどちらか」しかないことがほとんどだ。その狭い世界に閉じこもったままだと、学校でトラブルが起きた時に世界に自分の居場所は無いと思ってしまう。しかし一歩外に出て、例えば習い事で別の学校に友人を作る、旅をするなどをすると世界は学校だけじゃないだと知ることができる。「世界の広さと美しさを知ること」それは過去に世界の広さを経験したアカネの母からアカネへの誕生日プレゼントとして描かれたと考えられる。

インターネット時代の生き方

インターネットの登場により、明らかに世の中は便利になったが不便になった部分も生まれた。例えばそれは、旅先で景色の美しさを見ずにTwitterを見たり、友人と対面で話しているのに友人を見ずにスマホをいじりながら話したり、バースデーワンダーランドでは女子小学生の友好関係にまで問題が生じている。

Twitterを見ずに、旅先ではその空気や美しさを体感したり、友人との会話ではインターネットではなくその場の友人を大切に会話したり「意外と身近にある美しいもの」を感じるのは今のインターネット時代で忘れてはならないものだとバースデーワンダーランドは伝えていると考える。

個人的にもついついTwitterを見てしまうので、以前からTwitterアプリはアンインストールしている。本当はスマホも持ち歩くのをやめようかと思った6が仕事の連絡にすぐに答えられないのは困るし、GoogleMapが無いと外を歩くことができない。なので、紙の本を持ち歩き、物語の美しさを味わうというところから始めたいという意識だけ高まった7一日だった。

  1. https://www49.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/27690.html
  2. 視聴者が矛盾を感じてしまうこと
  3. アルドノア・ゼロの通信に対する考察がとてもおもしろい http://yamanashirei.blog86.fc2.com/blog-entry-1803.html
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